THE SPIRIT OF TAKUMI - 酒井清隆- (その3)

  • Collection / Design
  • The Artisan of Time
2021年5月28日
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The New Grand Seiko Design

落ち着いた世界観が放つ、深遠な輝き

酒井にとってもうひとつの大きな挑戦は、グランドセイコーの王道となるデザインに、これからの時代にふさわしい最適な光と影のバランスを作り上げることでした。それは、ドレッシーできらびやかな輝きではなく、品格を備えながら落ち着いた輝きであると酒井は考えました。そこで着眼したのが、これまで鏡面が主体のデザインにおいては、あくまでも部分的に使われていたヘアライン面です。ヘアライン面をより多く取り入れることによって、落ち着きのある輝きを実現させています。
「ヘアライン特有のマットな質感を存分に活かすことで、腕時計全体に落ち着いた輝きや、スポーティな印象を与えることができるのではないかと考えました。新しいデザインでは、ケースサイド、ガラス縁上面、かん足の上面をはじめとするパーツにヘアライン仕上げを施し、全体的に落ち着いた趣を与えながら、鏡面を部分的に入れることで、美しいエッジが際立ちシャープな印象に仕上がっています。ヘアラインと鏡面をどこにどう入れるかによって表情は大きく変わってくるので、慎重にバランスを取りながら作り上げていきました。言い換えれば、鏡面の入れ方をいかにコントロールしていくかということが、ヘアラインの持つ特徴を最大限に活かすための肝ということが言えます。光を抑えることによって、ヘアライン面の落ち着いた世界観が強調されるとともに、光と影のコントラストに、より多くの表情が生まれることで深遠な輝きを放つデザインが実現しました」

 

腕なじみの良い、張りのあるケース

このデザインを作り上げていく上で、最たる利点となったのは、新ムーブメントの薄型化です。ムーブメントの厚さに由来するデザイン面での制約にとらわれることなく、従来のケースの厚さに比べて、約1ミリの薄型化を図りながら、凛とした趣を備えた「張りのあるケース」を実現しました。
「ケースサイドの逆斜面を大幅に減らし、思い切ってストレートな広い垂直面にすることで、あえてケースサイドに厚さをもたせ存在感のある造形にしました。ムーブメントが厚い場合は、薄く見せる工夫をすることが多いのですが、このケースは薄く見せる工夫をしていません。これは、ムーブメントが薄型化したからこそ実現できた造形です。切り立つようなケースサイドの垂直面や、緩やかなカーブを持つかん上面から、スパッと潔く先端を切り落としたかん足など、塊を削いだような緊張感のある造形を取り入れることで、張りのある軽快さを持つケース形状を実現しています」さらに今回、酒井が力を注いだのが、これまで以上に安定感のあるつけ心地の実現です。
「人々がより能動的に、アクティブに活動するという現代の文脈を踏まえながら、フォーマルなシーンだけでなく、どんなシーンにでも合う腕時計を目指す上で、より安定感のある、腕なじみに優れた装着性をもたせることは必然でした。これを実現するための要となるのは、腕時計の重心位置です。ムーブメントに厚さがあると、重心位置はおのずと高くなりますが、その逆に、ムーブメントが薄ければ薄いほど、重心位置を下げることが可能になります。このデザインでは、ムーブメントの薄型化という利点を活かし、裏ぶたの厚さを極限まで薄くすることで、可能なかぎり重心位置を下げました。さらに、40mmのケースサイズに対して、かん幅を22mmとかなり広くすることで横方向のぐらつきを抑え、より腕にフィットする装着性を実現しています」

 

Caliber 9SA5搭載モデル